オリジナル小説 【フォークソングが消えた日】(第2回)
『済みません!』
返事のないまま、中から煙草をくわえた男が出て来た。
『何かようか?』
『僕、フォークソング部に入部したいのですが?』
その男は井口の全身を舐め回すように見つめた。
『ちょうど部長が奥にいるから、こっちへ来いよ』
その男はその場で井口に背を向け、部室の奥に進んで行った。井口はその男の後について行った。
『ようこそ!』
部室の一番奥の大きなテーブルの前に小柄な男が独りで座っていた。
『僕、この春入学した井口と言います』
『俺は部長の池田、よろしく』
『こちらこそ、よろしくお願いします』
部長と井口の短いやり取りが続いた。
『君の入部を歓迎しますよ。難しい決め事なんか何もありません。ただコンサート活動等の実費負担として、部費を毎月3000円だけ徴収しているのでよろしく。基本いつでもこの部室に来て、練習とか音楽活動をしてもらって構いません。毎週月曜日15:00に全員集合して部会をやるので、その日に部員には井口君のことを紹介しましょう』
『ありがとうございます。では来週月曜日のその時間に出直しします』
井口はそう言い終えて部室を出て行こうとした。
『まあ、そう急がなくてもいいでしょう。少し話しでもして行きませんか?』
池田部長が井口を引きとめた。別段の用事も無かった井口は、大きなテーブルを挟んで池田部長と向き合う様にして腰掛けた。
『井口君の好きなフォークソングとは、プロテスト・ソングですか、それともメッセージ・ソングですか?もっと分かり易い反戦ソングですか?』
井口は池田部長が話している内容について詳細は承知していなかったが、明らかに井口が高校時代から楽しんで来たフォークソングとは違った方向性の音楽であることだけは理解していた。
『詳しいジャンル分けの知識はありませんが、
僕はピーター・ポール・アンド・マリー、キングストン・トリオ、ブラザース・フォア、ボブ・ディランたちの楽曲をコピーするのが好きです』
井口は高校時代から自分で楽しんで来た内容を池田部長に伝えた。
『お坊ちゃま、お嬢ちゃま、御用達のカレッジ・フォークですか・・・?』
『・・・』
池田部長の話しぶりにかなり侮蔑した感情が見透かされて、池田は正直気分が悪かった。
『井口君はピーター・ポール・アンド・マリーをコピーしていたと言ったけど、彼等の楽曲の歌詞をきちんと理解してコピーをしていたの?俺には彼等の楽曲はベトナム反戦や公民権運動への応援ソングだと思えるのだがね。♪花はどこへ行ったなんて、もろ反戦歌でしょう!』
池田部長の言っていることを勿論井口は理解していた。だが高校生の井口にとって、反戦と言う感性はどうしても素直に心根に降りて来なかった。一般論として高校生の井口が知り得る限りで、ベトナム戦争が反対すべき戦争であることは理解できていた。
だがその想いを歌に込めて表現する所まで、井口の中で問題意識が醸成されていなかった。井口の高校時代、周囲にはビートルズ、ジミーヘンドリックス、ドアーズ、ローリングストーンズ、レッドツェッペリン、ザフーにはまっていたロックが大好きな連中が大勢いた。
勿論井口も好きだったが、それ以上に中学時代からの延長線上にあったピーター・ポール・アンド・マリー、キングストン・トリオ、ブラザース・フォア、ボブ・ディランたちの楽曲の方が好きだった。勿論彼等の楽曲の中に様々なメッセージが込められていた事も承知していた。でもどちらからと言うと井口は音楽性としてロックよりフォークソングの方が心地良かっただけだった。
好き嫌いの問題だけだった。ギターテクニックであったりハーモニーであったり、とにかく井口は高校時代からフォークソングに対してずっと音楽性の面からのアプローチだけに専念してきた。ただそんな気持ちを今、目の前の池田部長に話す気にはなれなかった。
『先ほども言いましたが、僕は今アメリカン・フォークソングのコピーなどを楽しみたいと思っています。もしそれがこちらのフォークソング部の活動内容に合わないのであれば・・・』
井口は池田部長に自分の考えていることが受け入れられないのであれば、どうしても入部することに拘らない想いを伝えようとした。
返事のないまま、中から煙草をくわえた男が出て来た。
『何かようか?』
『僕、フォークソング部に入部したいのですが?』
その男は井口の全身を舐め回すように見つめた。
『ちょうど部長が奥にいるから、こっちへ来いよ』
その男はその場で井口に背を向け、部室の奥に進んで行った。井口はその男の後について行った。
『ようこそ!』
部室の一番奥の大きなテーブルの前に小柄な男が独りで座っていた。
『僕、この春入学した井口と言います』
『俺は部長の池田、よろしく』
『こちらこそ、よろしくお願いします』
部長と井口の短いやり取りが続いた。
『君の入部を歓迎しますよ。難しい決め事なんか何もありません。ただコンサート活動等の実費負担として、部費を毎月3000円だけ徴収しているのでよろしく。基本いつでもこの部室に来て、練習とか音楽活動をしてもらって構いません。毎週月曜日15:00に全員集合して部会をやるので、その日に部員には井口君のことを紹介しましょう』
『ありがとうございます。では来週月曜日のその時間に出直しします』
井口はそう言い終えて部室を出て行こうとした。
『まあ、そう急がなくてもいいでしょう。少し話しでもして行きませんか?』
池田部長が井口を引きとめた。別段の用事も無かった井口は、大きなテーブルを挟んで池田部長と向き合う様にして腰掛けた。
『井口君の好きなフォークソングとは、プロテスト・ソングですか、それともメッセージ・ソングですか?もっと分かり易い反戦ソングですか?』
井口は池田部長が話している内容について詳細は承知していなかったが、明らかに井口が高校時代から楽しんで来たフォークソングとは違った方向性の音楽であることだけは理解していた。
『詳しいジャンル分けの知識はありませんが、
僕はピーター・ポール・アンド・マリー、キングストン・トリオ、ブラザース・フォア、ボブ・ディランたちの楽曲をコピーするのが好きです』
井口は高校時代から自分で楽しんで来た内容を池田部長に伝えた。
『お坊ちゃま、お嬢ちゃま、御用達のカレッジ・フォークですか・・・?』
『・・・』
池田部長の話しぶりにかなり侮蔑した感情が見透かされて、池田は正直気分が悪かった。
『井口君はピーター・ポール・アンド・マリーをコピーしていたと言ったけど、彼等の楽曲の歌詞をきちんと理解してコピーをしていたの?俺には彼等の楽曲はベトナム反戦や公民権運動への応援ソングだと思えるのだがね。♪花はどこへ行ったなんて、もろ反戦歌でしょう!』
池田部長の言っていることを勿論井口は理解していた。だが高校生の井口にとって、反戦と言う感性はどうしても素直に心根に降りて来なかった。一般論として高校生の井口が知り得る限りで、ベトナム戦争が反対すべき戦争であることは理解できていた。
だがその想いを歌に込めて表現する所まで、井口の中で問題意識が醸成されていなかった。井口の高校時代、周囲にはビートルズ、ジミーヘンドリックス、ドアーズ、ローリングストーンズ、レッドツェッペリン、ザフーにはまっていたロックが大好きな連中が大勢いた。
勿論井口も好きだったが、それ以上に中学時代からの延長線上にあったピーター・ポール・アンド・マリー、キングストン・トリオ、ブラザース・フォア、ボブ・ディランたちの楽曲の方が好きだった。勿論彼等の楽曲の中に様々なメッセージが込められていた事も承知していた。でもどちらからと言うと井口は音楽性としてロックよりフォークソングの方が心地良かっただけだった。
好き嫌いの問題だけだった。ギターテクニックであったりハーモニーであったり、とにかく井口は高校時代からフォークソングに対してずっと音楽性の面からのアプローチだけに専念してきた。ただそんな気持ちを今、目の前の池田部長に話す気にはなれなかった。
『先ほども言いましたが、僕は今アメリカン・フォークソングのコピーなどを楽しみたいと思っています。もしそれがこちらのフォークソング部の活動内容に合わないのであれば・・・』
井口は池田部長に自分の考えていることが受け入れられないのであれば、どうしても入部することに拘らない想いを伝えようとした。
スポンサーサイト