《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界 オリジナル小説 【キリング・ミー・ソフトリーをあなたに】(第8回)
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オリジナル小説 【キリング・ミー・ソフトリーをあなたに】(第8回)

その日訪れた増川さんの喫茶店には、前回と同様にお客さんは武史以外には誰もいなかった。
『いらっしゃい!』
入口の扉を開けると、もう十分に聞き慣れた増川さんの声がカウンターの中から聞こえて来た。
『先日は、色々とお世話になりました』
武史が前回同様に窓側の席に着こうとしたところ、増川さんから不意に声が掛かった。

『今日はこちらのカウンター席の方に腰掛けませんか?』
武史は増川さんに言われた通り、カウンター席に腰掛けた。
『どうでしたか?ニコン講座の方は、少しは役立ちましたか?』
増川さんはニコン講座がすでに終了していたことを知っていた。
『とても参考になりました。担当の講師の方のお話も、本当に納得感のある身になるものばかりでした』

『それは良かった。何しろ私の方から講座参加申込書を手配させてもらったので、何となく気になっていたので・・・』
カウンターの中の増川さんは、ホッとした様な笑みを浮かべていた。
『今日も、ブレンドでいいのかな?』
『お願いします』
増川さんは慣れた手つきで、コーヒーサイホンでコーヒーを煎れ始めた。

『このカウンターも、撮らせてもらっていいですか?』
武史はカウンター席に座った時から、カウンターに出来ていた多くの傷跡が気になっていた
『いいですとも!随分とこのカウンターが創作意欲を駆り立てているようですね』
増川さんが怪訝そうな表情で武史に尋ねて来た。

『はいそうです。失礼ですが、結構色々な所にある傷跡が蛍光灯や窓から差し込む陽射しの当たり具合で、面白い表情を見せているようで・・・』
『なるほど、好きなだけ撮って下さい』
武史は増川さんからの返事を待って、ボディバッグの中から祖父ちゃんから譲り受けたニコンFM10を取り出した。武史は座ったまま色々なアングルを覗き込みながら、一番気にったアングルを見つけてシャッターを押した。
『はいどうぞ!』
増川さんがコーヒーをカウンターの上に出してくれた。

『須佐美さん、そのカメラを見せてもらってもいいですか?』
武史には増川さんの口から自分の名前が、滑らかに出て来た事が何となく嬉しく感じられた。
『勿論です。どうぞ!』
武史は増川さんにニコンFM10を手渡した。増川さんは目を細めながら、熱心にカメラを見つめていた。

『このシンプルなファインダー内表示は使いやすそうですね。この仕様だとオーバーやアンダー気味の露出も簡単に決めることが出来るね。更に多重露出機構もついているから、便利でしょう。確か測光方式はベーシックな中央部重点測光でしたよね。これなら狙ったイメージに合わせて独自の表現も出来る方式だし、微妙な光のニュアンスもコントロールしやすく露出ワークも思い通りにできます。本当に楽しめるカメラですね。実は私もこのニコンFM10を以前使っていたのですが、デジタルに変えた時に手放してしまったのがこうして改めて手にしてみると残念に思えますよ』

自分でも使っていたカメラだけあって、増川さんはニコンFM10を懐かしそうに手にしていた。
『このカメラは亡くなった祖父から生前に譲り受けたものです。増川さんにそんなに褒められると、何だか亡くなった祖父が褒められているようで・・・』

『須佐美さんのお祖父さんが使われていたのを、武史君が大切に使っていると言うことですね。素敵なお話ですね』
そう言いながら増川さんはニコンFM10を武史に戻して来た。
『ところで、ニコン講座のどんなところが為になりましたか?或いは為にならなかったのか、正直に教えて下さい。あの講座の運営に私の知り合いが関わっているので、ぜひ参考意見に聞かせて下さい』
増川さんが今度は先日受講したニコン講座の話に話題を変えた。


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プロフィール

間々田 陽紀

Author:間々田 陽紀
■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(227作品)・作詞(506作品)を創作し順次公開しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。


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